インタビューログデータコピー [01-06:00] <記録開始> A: では実験の開始をここに記録します。…まずSCP2170-jpについてどのような感想をお持ちになりましたか? B: …ふうむ、…いや、とても綺麗だなと思った。…下品な話だが、「勃起」してしまったよ。…自分でも驚いているが、今まで誰かの手を綺麗とは思ってもエロい、とは思ったことは無かった。…これがおたくらの言う「異常性」のことで間違いないかな? A: 私どもの口からは何とも…それではこちら(非異常性の原画を見せる)と相違ないものが描かれていましたか? B: 同じ…いや、差異がありますね…微妙に違う…。指先の方向とか肌の色とか、何かもっと「新しい」感じがありました。…私はこれよりさっき見たやつ(SCP-2170-jpを指すと思われる)のほうが奇麗だと思うんだが。 A: そうですか…ほかには? B: 特には。 A:それでは記録を終了いたします。 B: あ...いや、待ってくれ。 B: その...手を洗ってもいいだろうか。 A: はい? B: いや、なんだ、自分でもおかしなものだがね、不思議と自分の手が「汚く」感じるんだよ。何かこう、起きたときから...そうだな、例えるならば...まるできれいなものを触るのに自分の手が汚れていて、触ったものを汚してしまうような、... いわゆる「後ろめたさ」を感じたんだ。 A: わかりました。記録しておきます。...ご存知でしょうがお手洗いは向こうの角にあります。 B: すまない。助かる。 (D-86612が退室する) <記録終了> 補遺 D-86612は当物品に対してのみ「とてもきれいな手をしている」 という趣旨の発言を繰り返しており原画とは違った反応を抱いている。 本物の絵を見た際、「ただの日本画」と興味を示していなかったことは注目に値する。 なお性的興奮を抱く兆候あり。 インタビュー後少なくとも10分以上、D-86612が手を洗う様子が確認された。それまでのバイタルデータが平常であり、精神疾患のたぐいは検出されなかったが、様子に鬼気迫るものがある。要観察対象。 [01-12:00] <記録開始> A: それでは第二回目のインタビューを開始いたします。よろしくお願いします。 B: こちらこそ。 A: それでは、何か変わった点がございましたらお知らせください。 B: いや。昼食も美味しかったし特に体調にも変化はない。すこぶる順調ってわけではないが、まあ、「普通」だな。 A: そうですか...ところで、何か必要な物品があれば私を介して支給することが許可されたのですが、何か必要なものがあったら今のうち私に教えてください。ご用意できるかと。 B: そうか...では、「爪切り」を。なんだか指の先がむず痒くてしょうがないんだ。 A: それは...先刻の「手を洗いたい」と同じような動機ですか? B: ...まあ、かんたんに言うと「そうだ。」と言うべきだな。 こう、言葉にするには難しいな。...まるで、「こうあるべき」という....そう、「本能」のようなものだな。「知らず知らずに刻まれた常識」とでも言うべきか... A: おっしゃることがよくわかりませんが...まあ、記録しておきます。それでは、次のインタビュー時までに準備をしておきます。 <記録終了> 補遺 話の内容がどこかあやふやで、熱に浮かされているように感じる。 本人も一連の行動の理由が判明していないことに疑問を抱く様子が確認されたが徐々に順応していっている。同時に、病院のカルテ、精神診断の記録などからD-86612の背景情報について調べる必要があると判断された。 [01-18:00] <記録開始> A: それでは第三回目のインタビューを始めます。...許可が出たので爪切りを持ってきました。 B: ああ、ありがとう。...ところで今日はインタビューはこれで終わりかな? A: はい、そう...なりますね。何か変わった点でも? B: いや、そういう事じゃあないんだ。ただ夜中に起こされてインタビューを受けないといけないのか、憂鬱だなと言うくらいにちらと考えたんだ。気分はまるで...、そうだな、「学校で先生に呼び出され、小言を言われるのを知っていながら歩く廊下」ってな具合だ。...つまりだ、あまり乗り気じゃなかったんだよ。 A: そう...ですか。ちなみに、体がだるい、熱っぽい、なんてことはありませんか? B: いやいや、すこぶる順調だよ。...気になるんだが、どうしてそんなことを聞くのかな? A: ...いえ、バイタルデータを確認したところ、朝から入浴前にかけて体温が少しずつ上昇しているんですよ。大体、一時間に0.1℃づつくらいですが...全く下がる気配がないので、発熱を疑っているんです。 B: ...妙なことがあるものだ。 (D-86612が退室する) <記録終了> 補遺 入浴後、体温が更に上昇、就寝直前には40℃を記録している。本人は更に調子が良くなったのか、饒舌になる様子や歌う様子が確認できる。 [01-12:00] バイタルデータ記録のみ。 Appearance 青紫 Pulse 0.5/min Grimace 反応なし Activity 弛緩しているか、全くなし Respiration ほぼなし、口が空いている 判定「死亡もしくは第二重度仮死」 <記録終了> 補遺 医師の判断 生きた人間の数値ではない。死んだも同然ではあるが、生命自体は継続している。 D-86612に関する情報 氏名 稲垣燕垣(いながき へんえん) 家系 曽曽祖父の4代までは日本絵画で大成した家系であったが曽祖父の代で没落、手元に屋敷だけが残る。 両親はごく一般の家庭であり当人も極めて平凡な暮らしをしていた。 大学生のとき交際していた男性に心中を持ちかけられ、口論の末橋から交際相手を突き落とし事故ながら殺害、以来 荒れた生活を送る。 本人はこの時点で女性を交際相手とすることを決意したと証言している。 その8年後1993年2月13日に殺人を行い実刑判決を受け当財団での職務が始まった。 女性を殺害した。